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広島地方裁判所 平成4年(わ)333号 判決

本店の所在地

広島市中区本川町二丁目二番一三号

法人の名称

株式会社築地

代表者の住居

広島市中区広瀬町三番七-九〇四号

代表者の氏名

平尾眞裕美

本籍

広島市中区広瀬町三番

住居

広島市中区広瀬町三番七-九〇四号

会社役員

平尾泰保

昭和一九年一月二九日生

右被告会社及び右被告人に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官小川新二、同髙山悦子、弁護人中田憲悟、同緒方俊平各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告会社株式会社築地を罰金二七〇〇万円に、被告人平尾泰保を懲役三年に各処する。

被告人平尾泰保について、この裁判確定の日から五年間その刑の執行を猶予する。

理由

(犯罪事実)

第一(被告会社の法人税法違反事件)

被告会社株式会社築地(以下、被告会社という。)は、広島市中区本川町二丁目二番一三号に本店を置き、不動産の売買、賃貸、管理、仲介等を目的とする株式会社、被告人平尾泰保(以下、被告人という。)は、被告会社の取締役で、被告会社の実質的経営者として、被告会社の業務一切を掌理しているものであるが、被告人は、能力開発等の研習会等の企画・立案等を目的とする株式会社総合クリエイティブの代表取締役である京免秀昌、不動産の売買、賃貸、管理、仲介等を目的とする株式会社ダイホウの代表取締役である木村靖弘、右ダイホウの従業員である小林實と共謀の上、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、被告会社がその所有する土地を売却するに際し、被告会社と事実の買受人との間に、右株式会社総合クリエイティブが買受人・売渡人として介在しているように仮装して売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、被告会社の平成二年四月一日から平成三年三月三一日までの事業年度における実際の所得金額が四億六八三五万七六四九円で、課税土地譲渡利益金額が三億二二三四万二〇〇〇円であったのに、同年五月三一日、広島市西区観音新町一丁目一七番三号所在の所轄広島西税務署において、同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が三億一〇二二万二六四九円で、課税土地譲渡利益金額が一億七〇一三万三〇〇〇円であり、これに対する法人税額が一億六五二一万五〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度分の正規の法人税額二億七〇一七万八四〇〇円と右申告額との差額一億四九六万三四〇〇円の法人税を免れたものである。

第二(東邦ビルド株式会社の法人税法違反事件)

被告人は、広島市中区東白鳥町一七番一八号に本店を置き、不動産の売買等を目的とする東邦ビルド株式会社の代表取締役中森律美、前記京免秀昌、木村靖弘、小林實と共謀の上、右東邦ビルド株式会社の業務に関して、法人税を免れようと企て、同会社がその所有する土地を売却するに際し、同会社と事実の買受人との間に、右株式会社総合クリエイティブが買受人・売渡人として介在しているように仮装するとともに、事実の買受人から受領する売買代金をも圧縮した内容虚偽の売買契約書を作成して売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、東邦ビルド株式会社の平成二年一月一日から平成二年一二月三一日までの事業年度における実際の所得金額が一八億五〇一八万九一二〇円で、課税土地譲渡利益金額が二五億八〇二九万四〇〇〇円であったのに、同三年二月二八日、広島市中区上八丁掘三番一九号所在の所轄広島東税務署において同税務署長に対し、同事業年度における所得金額が三九八三万二五一円で、課税土地譲渡利益金額が七億五三二九万六〇〇〇円であり、これに対する法人税額が二億三〇〇四万七三〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同事業年度分の正規の法人税額一五億二二九万三〇〇円と右申告額との差額一二億七二二四万三〇〇〇円の法人税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書六通(検二三八・二三九・二四一・二四五・二四七・二六二号)

一  弁論分離前の共同被告人京免秀昌の検察官に対する供述調書六通(検二六五・二六七ないし二六九・二七三・二七九号)

一  弁論分離前の共同被告人小林實の検察官に対する供述調書九通(検二八〇・二八二・二八七・二九〇ないし二九二・三〇〇ないし三〇二号)

一  木村靖弘の検察官に対する供述調書七通(いずれも謄本、検一二一・一二二・一二四・一二七・一三一ないし一三三号)

一  平尾雅治の検察官に対する供述調書四通(検八一・八二・八五・八八号)

一  三浦敦子(三通、検一〇七ないし一〇九号)、坂木康之(検一一〇号)、廣本久美子(二通、検一一一・一一二号)、一万田智子(検一一三号)、今里秀子(二通、検一一四・一一五号)、村上雅一(検一一六号)及び金山哲治(検一一七号)の検察官に対する各供述調書

一  登記官作成の履歴事項全部証明書(検一四一号)

判示第一の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書八通(検二五四ないし二六一号)

一  弁論分離前の共同被告人京免秀昌の検察官に対する供述調書三通(検二七六ないし二七八号)

一  弁論分離前の共同被告人小林實の検察官に対する供述調書五通(検二九五ないし二九九号)

一  木村靖弘の検察官に対する供述調書二通(いずれも謄本、検一二九・一三〇号)

一  前田征寛(二通、検五八・五九号)、土鼻隆司(検六〇号)、北山俊文(検六一号)、村上一二(検六二号)、高嵜恭子(検六三号)、神田大作(検六四号)、児玉利雄(二通、検六五・六六号)、池田邦彦(検六七号)、伊折一夫(検六八号)、橋本小夜子(検六九号)、栗林佐千子(検七〇号)、兼田憲治(検七一号)、廣瀬義人(検七二号)、中曽崇(四通、検七三ないし七六号)、平尾雅治(検七七号)、細谷眞智子(検七八号)、舛田美恵子(検七九号)、竹永靖正(検八〇号)の検察官に対する各供述調書

一  広島法務局登記官作成の商業登記簿謄本(検三〇四号)

一  大蔵事務官作成の販売手数料調査書(検一〇号)、雑損失調査書(検一一号)及び土地譲渡利益金額調査書(検一二号)

一  押収してある法人税確定申告書(平成四年押第八二号の2)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書八通(検二四二ないし二四四・二四六・二四八ないし二五一号)

一  弁論分離前の共同被告人中森律美の検察官に対する供述調書(検二一八・二一九・二二一号)

一  弁論分離前の共同被告人京免秀昌の検察官に対する供述調書六通(検二六六・二七〇ないし二七二・二七四・二七五号)

一  弁論分離前の共同被告人小林實の検察官に対する供述調書八通(検二八一・二八三ないし二八六・二八八・二八九・二九四号)

一  平尾雅治の検察官に対する供述調書五通(検八三・八四・八六・八七・八九号)

一  木村靖弘の検察官に対する供述調書四通(いずれも謄本、検一二五・一二六・一二八・一三四号)

一  中森美佐子の検察官に対する供述調書一四通(検九一ないし一〇四号)

一  野田良次(二通、検一九・二〇号)、伊藤俊司(二通、検二一・二二号)、原井敏明(二通、検二三・二四号)、森分恒(四通、検二五ないし二八号)、大畠茂(三通、検二九ないし三一号)、岡義人(検三二号)、石井勝哉(検三三号)、倉本節彦(検三四号)、中本正成(検三五号)、大原吉男(検三六号)、山本ユキ子(検三七号)、松田潤(検三八号)、金丸茂雄(検三九号)、藤山安朗(検四〇号)、吉岡ひろみ(検四一号)、中岡憲美(二通、検四二・四三号)、河添ヒロ子(検四四号)、浜橋栄子(検四五号)、五島栄次郎(検四六号)坂本あつ子(検四七号)、森尾泰子(検四八号)、堅田繁幸(検四九号)、細谷眞智子(検五〇号)、舛田美恵子(検五一号)、広本久美子(検五二号)、渡邉直昭(検五三号)、網干正和(検五四号)、倉橋俊雄(検五五号、謄本)、佐々木完司(検五六号、謄本)、佐々木昭子(検五七号、謄本)及び吉岡尚美(二通、検一〇五・一〇六号)の検察官に対する各供述調書

一  検察官作成の実況見分調書四通(検一四・一五・一七・一八号)

一  検察事務官作成の捜査状況報告書(検一六号)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書(四通、検二・三・六・三二一号)、受取利息調査書(検四号)、雑収入調査書(検五号)、土地譲渡利益金額調査書(検七号)

一  広島法務局登記官作成の商業登記簿謄本(検三〇三号)

一  押収してある法人税確定申告書(平成四年押第八二号の1)

(法令の適用)

一  罰条

1  被告会社について

法人税法一六四条一項、一五九条一項(なお、罰金額については、法人税法一五九条二項を適用し、免れた法人税額に相当する金額以下とする。)

2  被告人平尾について

判示第一の罪について 刑法六〇条、法人税法一五九条一項

判示第二の罪について 刑法六〇条、六五条一項、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人平尾について、いずれも懲役刑を選択

三  併合罪の加重

被告人平尾について、刑法四五条前段、四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重

四  執行猶予

被告人平尾について、刑法二五条一項

(量刑の理由)

一  本件は、被告人平尾が実質的に経営する被告会社の平成三年三月期の法人税額一億四九六万三四〇〇円の納付を免れた被告会社に関する法人税法違反事件及び被告人平尾が、共犯者中森律美らと共謀の上、右中森が経営する東邦ビルド株式会社の平成二年一二月期の法人税額一二億七二二四万三〇〇〇円の納付を免れた東邦ビルド株式会社の法人税法違反事件である。

二  まず、被告会社の事件についてであるが、被告会社は、被告会社が所有していた広島市西区天満町の土地を前田建設株式会社に対して金五億円で売却するに際して、株式会社総合クリエイティブを介在させ、被告会社から株式会社総合クリエイティブへの金三億三二八六万五〇〇〇円での売買と右総合クリエイティブから右前田建設への金五億円の売買をいずれも仮装し、被告会社の売上から一億六七一三万五〇〇〇円を除外することにより、前記のように一億円余りの法人税を免れたものである。右のような売買の仮装により、被告会社は、実際の所得四億六八三五万七六四九円の内、一億五八一三万五〇〇〇円をほ脱するとともに、実際の課税土地譲渡利益三億二二三四万二〇〇〇円の内、一億五二二〇万九〇〇〇円をほ脱し、その結果、正規の法人税額二億七〇一七万八四〇〇円の内、一億四九六万三四〇〇円の法人税を免れたもので、ほ脱率も、三八・八パーセントに及び、従って、その結果は、国の租税収入を相当程度侵害したものといわなければならない。犯行の態様も、架空の売買を実際の売買に仮装するために契約書を偽造した上、さらに、右架空の売買に従って金が流れたことをも仮装するなど計画的なもので悪質である。従って、被告会社の刑事責任は重いといわなければならない。

三  次に、東邦ビルド株式会社の法人税法違反の件であるが、これも、東邦ビルド株式会社所有の広島市西区福島町所在の土地の株式会社博栄コーポレーションへの売買に関し、前記と同様の方法で右総合クリエイティブを介在させて、売上額の一部を除外するとともに、真実の売買代金との差額を裏金として受け取ることにより、一二億七〇〇〇万円余りの法人税を免れたという事案である。すなわち、東邦ビルドは、右土地を実際には三八億四五六〇万円で博栄コーポレーションへ売却したにもかかわらず、契約書上は、東邦ビルドから総合クリエイティブへ二〇億円で売却し、さらに右総合クリエイティブが右博栄コーポレーションへ二六億一九二八万円で売却したように仮装し、六億一九二八万円の売上を除外するとともに、一二億二六三二万円の裏金を受け取りながら、これも申告しなかったもので、右仮装行為により、東邦ビルドは、実際の所得金額一八億五〇一八万九一二〇円の内、一八億一〇三五万八八六九円をほ脱するとともに、実際の課税土地譲渡利益金額二五億八〇二九万四〇〇〇円の内、一八億二六九九万八〇〇〇円をほ脱し、その結果、正規の法人税額一五億二二九万三〇〇〇円の内、一二億七二二四万三〇〇〇円の法人税を免れたもので、ほ脱率も約八四・七パーセントにも及ぶことに鑑みれば、何よりもこのほ脱した金額が極めて多額であって、しかもほ脱率も極めて高いことに着目せざるを得ず、従って、本件は、その結果が極めて重大で、国の租税収入を大きく損ったものであるといわなければならない。その犯行の態様も、やはり契約書を偽造したり、偽造の契約書に従った金の流れを作出するなど非常に巧妙な手段を用いた計画的な犯行であって悪質であることはもちろんであるが、白昼堂々と一二億余りの現金を銀行で受け取って段ボール箱に入れて車に積み、河原でその金を分けるなど、非常に大胆な行動もとっており、国民一般の常識から著しく逸脱した許し難い犯行である。

四  被告人平尾は、被告会社の件については、被告会社の実質的な経営者として、まさに主導的立場で、右の売買の仮装について他の共犯者らに必要な指示をし、その結果前記のような多額の法人税を免れ、その利益も得たものであって、それだけでもその刑事責任は重大である上に、右東邦ビルドの件についても、主犯者の中森に最も近い立場にあって、当初の計画段階から、中森とともに、東邦ビルドの法人税の納付を免れるため、他の共犯者に中森の指示を伝えたり、前記のように河原で一二億円余りの裏金を分配する等積極的な活動をしている上、被告人平尾の供述によるとしても、この件で二億五〇〇〇万円余りの不正な報酬を得た他、全体では、被告会社の法人税法違反による不正な報酬を含めると合計四億円位、さらに架空の売買の仲介料名目で取得した一億円も含めれば実に合計五億円位の不正な利益を得ており、その刑事責任は、やはり非常に重大であるといわなければならない。また、被告人平尾は、このような犯行に主体的に行動していたことに何ら躊躇した形跡もなく、本件当時、まさに金銭欲のままに行動し、規範意識も欠けていたものと考えられ、その動機についても全く酌量すべき点は認められない。

五  しかしながら、被告人平尾は、本件で検挙された後は、次第に自らの過去についての反省の情が深まり、捜査機関に対してそれぞれ法人税を免れた事実について素直に供述をするとともに、被告会社の法人税法違反については、修正申告をして、支払うべき法人税・重加算税合計一億四二六三万円余りのうち、現在四〇〇〇万円の法人税を納付し、今後も全額を納付するように努力をしていること、東邦ビルドの法人税法違反については、被告人平尾が主体的な行動をとっているとはいっても、主犯者は東邦ビルドの経営者である中森であることは明らかであって、その責任も中森に比べれば軽いと認められること、二五〇〇万円を贖罪寄付していること、過去前科はあるものの、昭和五八年以降は犯罪歴がないこと等本件犯行後のものが主であるとはいえ、被告人平尾のために有利に斟酌すべき事情も認められる。

六  そこで、当裁判所は、以上の諸事情を総合考慮した結果、被告会社については、主文掲記の罰金額を相当と認め、さらに被告人平尾については、その刑事責任は非常に重大であるものの、被告人平尾に有利に斟酌すべき事情をも考慮し、社会内での更生を期待することが相当であるとの結論に至ったものである。裁判所としては、被告人平尾が、今後、さらに本件についての反省を深め、二度とこのような犯行に及ばぬよう地道に生活をしていくことを強く期待するものである。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 若園敦雄)

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